「患者さんが38℃の発熱があるので、解熱剤を使ってもいいですか?」と、看護師から聞かれることがある。「いいですよ」と答えることもあるし、「それでいいですか?」と逆に質問することもある。医師への報告内容は、看護師の力量が問われている。
よくあるパブロフの犬(食べ物を見ると唾液が出る反射)的な思考回路といえば、
・発熱 → 解熱剤 or 抗菌薬
・食べられない → 点滴
・がん患者の疼痛 → オピオイド増量
がある。
なぜこれではいけないのかを、ちょっと考えてみたい。
あなたは総合病院の内科当直をしている医師だとする。10人の38℃の発熱患者さんが、時間外に受診するとしよう。一般的には、問診、診察、検査、説明、治療(点滴または投薬)という流れになる。10人の発熱患者さん全員が38℃で、所見が同じだった場合に、説明と治療は同じになるだろうか?
10人全員の症状と所見が同じであり、結果(治療)が同じであれば、パブロフの犬的治療は優秀である。時間が短縮できるし、こちらも楽である。しかし、これは50点の医療行為だと思っている。
どこがいけないのか?
答えは、「症状は同じでも、患者さんの望んでいることは違う」ということである。
つまり、38℃の発熱であっても、患者さんの望んでいることは様々である。
・インフルエンザかどうか心配だ
・とりあえず解熱剤が欲しい
・肺炎になってないか心配
・会社を休みたいので、診断書を書いてほしい
望んでいることが違うのに、結果である説明や治療が同じであれば、患者さんが病院に来た本当の理由の解決にはならないのである。これが、パブロフの犬的治療が50点である理由である。実際には、抗菌薬または解熱剤が欲しいという人がほとんどなので、70点ぐらいの点数をあげてもいい。しかし、「わざわざ夜に病院を受診するのは、何を求めているのか?」という視点を持っていないと、満足度は上がらないのである。
より良い結果の例を挙げておく。
・インフルエンザかどうか心配だ → インフルエンザの抗原検査を行う
・とりあえず解熱剤が欲しい → 解熱剤の処方
・肺炎になってないか心配 → 胸部レントゲン撮影
スキルアップのために重要なことは、「患者さんが何を求めているか」つまり聞く力が重要である。
症状 → 説明 → 治療
ではなく、
症状 → 患者さんが何を望んでいるか → 説明
を意識して、ケアを行うことで、患者満足度を上げることができるのである。
ここで、患者さんの希望をすべて聞けばいい医療が提供できるのかという質問がでてくるであろう。そうではない。具体例を挙げてみる。
・終末期がん患者に1000ml以上の輸液をする
・発熱患者に解熱剤を使用する
・ウイルス感染(風邪など)に対して抗菌薬を使用する
これらは、エビデンスが乏しい治療であり、逆に患者さんに副作用や合併症を引き起こす可能性もある行為である。
患者さんの希望と、より良い医療のギャップを埋める作業が、おもしろいと思えるようになれば、看護師のスキルアップ間違いなしである。
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