1持続皮下輸液(hypodermoclysis;HDC)とは 1980 年以降, 高齢者の輸液や緩和ケア領域での有用性が見直され,また安全性を立証した報告がみられるようになり,緩和ケアや在宅医療などにおいて再び注目されている輸液方法である。 持続皮下輸液(HDC)とは,時間をかけて皮下に輸液を行う方法であり,持続注入ポン プは使用しない。従来の皮下輸液* 1 や皮下注射* 2 とは目的・用法・使用できる薬剤が異なる。
*1:皮下輸液(subcutaneous infusion):1950年代までは多用された,500~1,000mLの輸液を皮 下に急速に投与する方法。*2:持続皮下注射(continuous subcutaneous infusion):主に緩和ケア領域で使用される。モルヒネ塩酸塩などの薬剤を,持続注入ポンプを用いて持続注入する方法。
2 HDCのメリットとデメリット
患者に輸液を行う場合は, 静脈内点滴投与が一般的であるが, 在宅医療では輸液中 の見守りが困難で, 輸液漏れや閉塞などのトラブルに対応することは容易ではない。 HDC はもともと“皮下に漏れる点滴”であるため,そのような見守りや刺し直しなどをする必要が少ない。
3 適応と禁忌 HDC は輸液療法であるため,「患者に輸液が必要であるか?」をまず検討する。 1適応 ・軽度~中等度の脱水
・高齢者やがん終末期の患者で,血管が細いまたは脆弱で末梢血管の確保が困難な場合
・認知症患者などで,輸液中の見守りが困難であったり自己抜去が懸念される場合
2禁忌 絶対的な禁忌は少ないが,HDC が適応とならない状態を以下に挙げる。
・ショック状態や高度な脱水
・1 日で 3L 以上の輸液を必要とする場合
・浮腫,リンパ浮腫
・肺水腫や重症のうっ血性心不全 ・出血傾向や播種性血管内凝固症候群(DIC)
4 方法 1 準備するもの ・手袋(滅菌でなくてよい) ・消毒用アルコール綿 ・ プ ラ ス チ ッ ク カ ニ ュ ー レ 型 静 脈 内 留 置 針( 2 2 ~ 2 4 G ) ・保護フィルム ・クローズドシステム用ジョイント(数日留置する場合) 2 輸液と輸液セットを接続し,輸液で満たしておく 3 穿刺部位を選ぶ ・穿刺部位が曲がらないところを選ぶ ・腹部などに穿刺する場合は,水平方向に穿刺するとよい 4 手袋をはめる 5 注射部位を消毒する ・刺入部位を中心に広く消毒し,乾燥するまで待つ 6 注射部位を指でつまみ, 留置針を皮膚に対して 30~45°の角度で穿刺し, 根元まで挿入する
7 逆血がないことを確認する
・逆血がある場合には,抜去して別部位を探す
8 内針を抜き,輸液セットを接続する
9 流量調節器をゆっくり開放し, 輸液が滴下されるかを確認する
・滴下されない場合には, カニューレを少し抜く と輸液できることがある
10 カニューレを保護フィルムで固定する
11 目的の輸液速度に調整する(20~80mL/時)
12 患者と家族/介護者に, 体動などによって輸液の終了する時間が前後することを伝えておく
13 連日施行する場合には,局所の発赤,浮腫,圧痛,液漏れなどがないかを確認する
5 HDCが可能な輸液・薬剤
HDC が可能なものとして,生食*,細胞外液(リンゲル),1~4 号輸液,5%ブドウ糖液が挙げられる。
5%ブドウ糖液を大量に輸液した場合に血管内虚脱となり重篤な結果をまねくことがあるとの報告があったが, 最近では,5%ブドウ糖液を使用してもそのような重篤な合併症はなく,安全であると報告されている。
モルヒネ塩酸塩など緩和ケア領域で使用する薬剤の多くは皮下投与が可能である。
HDC で使用可能な薬剤を例として挙げておく。 ・ビタミン剤*(一部に適用外あり)
・抗菌薬(βラクタム系,モノバクタム系,アミノグリコシド系,クリンダマイシン系)
・オピオイド(モルヒネ塩酸塩*,オキシコドン*)
・ベンゾジアゼピン系(ミダゾラム,フルニトラゼパム)
・ハロペリドール
・スコポラミン臭化水素酸塩水和物*
・メトクロプラミド
・フロセミド
・インスリン*
・ステロイド(ベタメタゾン,デキサメタゾン)
*:保険適用があるもの。他の輸液,薬剤には保険適用がないが,経験的に投与されている。 ジアゼパムは,皮下投与すると局所の発赤などの頻度が多いため,皮下投与しないこと。 ヒドロコルチゾンは,皮下投与すると激しい疼痛を訴えるため,皮下投与しないこと。
抗菌薬の奏功率 皮下輸液による奏功率を検討した報告は少ない。Gauthier らは, 皮下投与群(38 例) と静脈投与群(110 例)を比較し,その副作用,死亡率,奏功率に差はなかったと報告し て い る。
6 副 作 用
I III IV
Q:翼状針でも HDC は可能でしょうか?
A: 翼状針でも HDC は可能ですが, プラスチックカニューレは, 翼状針に 比べて長期に留置が可能という報告があり(11.9±1.7日 vs 5.3±0.5日)7), プラスチックカニューレを使用することを推奨します。
Q:適切な輸液速度を教えて下さい。
A : 安 全 に 輸 液 が 可 能 な 速 度 は 2 0 ~ 8 0 m L /時 で , 最 大 で 約 2 L /日 の 輸 液 が 可能です。それ以上の輸液が必要な場合には,2 箇所で HDC を施行します。
Q:プラスチックカニューレの交換時期を教えて下さい。
A: プラスチックカニューレを使用した場合は, 合併症がなければ 5~7 日 間の留置が可能です。 毎日刺入部の観察を行い, 発赤などの症状がある場合に は留置後 48 時間以内であっても刺し直しを行いましょう。
(参考文献)
1) Daland J:The Treatment of Cholera by Hypodermoclysis and Enteroclysis. Trans Am Climatol Assoc. 1895;10:92-104.
2) Sasson M, et al:Hypodermoclysis:an alternative infusion technique. Am Fam Physician. 2001 ; 64(9) : 1575-8.
3) Dasgupta M, et al:Subcutaneous fluid infusion in a long-term care setting. J Am Geriatr Soc. 2000 ; 48(7) : 795–9.
4) ISRAELS S, et al:The dangerous nypodermoclysis in infancy. Can Med Assoc J. 1959;80(1)31-2.
5) 馳 亮太 , 他 : 本邦初の持続静注投与法を用いた外来静注抗菌薬療法(OPAT : Outpatient Parenteral Antimicrobial Therapy)に関する報告. 感染症学雑誌. 2014;88(3):269-74.
6) Gauthier D, et al:Subcutaneous and intravenous ceftriaxone administration in patients more than 75 years of age. Med Mal Infect. 2014;44(6)275-80.
7) Macmillan K, et al:A prospective comparison study between a butterfly needle and a Teflon cannula for subcutaneous narcotic administration. J Pain Symptom Manage. 1994;9(2):82-4.
種類にもよりますが、他の文献では500mlをさん3ないし、4時間でも良いとされてますが、ご見解を宜しくお願い致します。