20年近く前のことである。
とある大学病院の消化器内科に勤務していた時のこと。
卒後1年目のピチピチ研修医が、ナースステーションにあわてて飛び込んできた。
「患者さんの頻脈が治らないので、診てくれますか?」
学生時代の私といえば、授業の出席率は30%程度。しかも、循環器は大の苦手科目であった。質問をする相手が悪かった。それでも、いちおう内科医である。基本的な心電図ぐらいは読めた(ことにしておこう)。

「PSVTだね。ATP(アデノシン)を打ってみようか」
患者さんに、モニターを装着し、研修医がアデノシンを静注する。
それまで、HR 200前後で、全力疾走していた心電図の波形が、一瞬にしてフラットになった。
研修医は、焦って「あっ、心臓が止まっちゃった」
私は、じっとモニターを見つめていた。研修医に、種明かしはしていなかった。
数秒後、心電図は何事もなかったように、動き出した。規則正しい波形を打ち始め、不整脈はなくなった。
この優秀な研修医が、当診療所の山下陽子である。
数年たっても、この時のことを言われた。本当にびっくりしたこと。なぜ最初に教えてくれなかったかと。
ちょっとイタズラが過ぎたかなと反省している。けど、彼女にしてみれば、もう絶対にPSVTの波形と、治療方法は忘れないと思う。

前置きが長過ぎた。
PSVT 発作性上室性頻拍
約 90%の例で房室結節リエントリーあるいは房室回帰が原因である。
在宅で、心電図がすぐに検査できない場合
期外収縮 ポチッと余計な1拍の収縮
心房細動 HR 100-150回/分 (150を超えない)
頻拍 HR 100-250回/分 (200ぐらい)
粗動 HR 250-350回/分(300ぐらい)
ざっくりと、HR 100-150ぐらいの頻脈を見たら、心房細動。なんとなく脈の間隔が不整なのがわかる。
HR 200前後の不整脈は、PSVTをまず考える。もちろん正確な診断には、心電図が必須である。PSVTの症状は、動悸、胸部不快感など。症状がないこともある。意識消失などは少ないと言われている。
VT、VFなどの致死的な不整脈は、病院でも除細動器がなければ救命は困難なので、在宅でできることは限られている。
PSVTの治療は、バルサルバテスト、アデノシン静注、ベラパミル点滴である。
バルサルバテスト
息こらえ(効果54%)、顔面冷水(効果15%)、頸動脈洞マッサージ(効果15%)、眼球圧迫
認知症の患者さんでは、息こらえも、顔面を冷水につけることも難しい。
眼球圧迫は、網膜剥離などのリスクがあり、最近はあまりやらないらしい。
頸動脈洞マッサージも脳梗塞を誘発するリスクがあり、注意が必要。マッサージをするなら、右頚動脈の雑音がないか聴診で確認後に、優しくマッサージする。
ファーストチョイスは、アデノシン静注である。(なぜか保険適応外)
静注後、数秒間の心拍停止が起こるため、モニター装着が必要。
患者さんにも、気分不良、嘔気、一時的な意識消失が起こることがあると説明する。
上記のように、効果は抜群。パソコンのリセットボタンを押すイメージ。
効き目は早いが、PSVTが再発することもある。
でも在宅では、ちょっと使いにくい。
ベラパミル(ワソラン)点滴
アデノシンのような心拍停止もないので、在宅でも使用可能。
カルシウム拮抗薬(降圧剤)の仲間なので、血圧低下に注意する。
アデノシンに比べると、効果発現に時間はかかるが、効果の持続性がある。
慢性期の再発予防
ワソランの内服
有効率は、50-84%
降圧剤なので、血圧低下に注意する。
不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009 年改訂版)より 一部編集
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